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石橋直樹。畳プロデューサー。
1971年福岡県大川市生まれ。福岡県の無形文化財である掛川織の職人を父に持ち、1993年にい草製品の会社に入社。新商品の開発を進め、グッドデザイン賞をはじめ数々の受賞作に携わる。2018年にい草製品の企画・製造を手掛ける会社「インスタイル」を設立。

新たない草の価値を求めて、さらなるステップを踏む

日本固有の文化として継承されてきた畳。しかし、生活様式の変化や安価な輸入品の流入によって、市場に占める国産い草のシェアは2割弱に留まっています。そのような状況の中で、い草の新しい可能性を追求しているのが石橋直樹さんです。祖母、父共に地元福岡の特産品である掛川織のつくり手として活躍し、い草に関わって自身で三代目になります。

「現在、国産い草の約98%は熊本県八代で生産。細かい管理のもとで栽培されるため、目が詰まっていて強度や耐久性、美しさなどにおいて、海外のものより断然優れています」と、石橋さんは話します。八代のい草の歴史は室町時代まで遡り、水はけがよくない湿地帯だったため、当地を治めていた大名によってい草の栽培が推奨されました。その後、明治時代になると製織の技術が発達するとともに生産量が増加。戦中・戦後の混乱期を乗り越え、昭和の高度成長期に熊本県のい草は栽培面積で全国1位を記録しました。

石橋さんが代表を務めるインスタイルでは、熊本県八代の生産農家と契約。稲とは異なり、い草は冬に田植えが始まり約8ヵ月後の夏に刈り取りを行います。

福岡県南部に広がる筑後地方は生産量こそ決して多くはないものの、い草の産地であり、この地方だけに伝わる掛川織を生み出しました。また、大川市は生産高日本一の家具の町としても知られています。石橋さんの転機となったのは約20年前。東京のデザイナーと大川の家具が協業する仕事で、視察として北欧を訪れたときでした。「ものづくりの考えが根本から違っていました。日本は新製品が重視されますが、北欧は半世紀以上前にデザインされたものが今でも大切に売られています」と、衝撃を受けたそうです。以降、い草を使った家具や雑貨を企画し、海外の展示会にも出展するなど精力的に活動してきました。

カラフルな色使いによるクッションやランチョンマットなどのシリーズ。他にも消臭性や抗菌性など、い草の特性を活かした靴のインソールなども手掛けています。

近年、い草の可能性を感じるもののひとつが、室内材などの素材としての価値だといいます。「い草は吸放湿性や消臭性、断熱性、抗菌性に優れる他、空気の浄化能力も高く、国産なら耐久性や美しさも兼ね備えています」と、胸を張ります。2016年には東京・八芳園の黒畳を手掛け、これまでのイメージを覆すシックなデザインで新境地を拓きました。

東京・白金台にある総合結婚式場・八芳園の宴会場に敷き詰められた黒畳。赤い縁が黒を引き立て、和洋を問わないモダンなたたずまいがさまざまな用途に対応します。

人々の暮らしに寄り添い、味わいを磨き続けるヱビスビール

明治の終わりに、機械化によって畳の生産量が劇的に増え、栽培面積も急増した八代のい草。この技術革新が起こった20年ほど前、1890年に誕生したのがヱビスビールでした。1900年に出展したパリ万国博覧会では金賞を、1904年にアメリカで行われたセントルイス万国博覧会ではグランプリを受賞しました。

「長い歴史の中で、い草製品は何度も変革期があったはず。過去を継承することだけが伝統ではなく、さまざまな変革の後も残るのが伝統として昇華していくのだと思います。明治時代に生まれたヱビスビールも人々の暮らしに根付くものづくりで味わいを磨き続け、それが継承されている点に共鳴を感じます。だからこれからも大川のい草瀬品は挑戦し続けないといけないし、その結果が伝統になるかどうかは時代が決めてくれるでしょう」

そんなヱビスビールと相性のよい地元の食材といえば、近くの有明海や長崎の平戸沖、玄界灘などで獲れる新鮮な魚介類。大川市で40年以上にわたって地元の人たちに愛されている「玉寿司」では、マダイやヒラメ、スズキ、サヨリ、キス、サバなど、すべて天然ものを使った造りや握りずしが好評です。天然ものならではの魚介の歯ごたえや凝縮され旨味は、ヱビスビールのしっかりとしたコクやまろやかな味わいを引き立てます。また、毎年5月1日から7月20日の産卵期間だけ解禁されるエツも見逃せません。エツとは有明海に生息し、産卵期になると筑後川を逆上するカタクチイワシ科の魚。獲ってから30分ほどで鮮度が落ちるため地元でしか食べられず、解禁期間中は脂がのった美味しさを堪能することができます。

ヱビスビールの美味しさを引き立てる玉寿司の造りの盛り合わせ。サバ、マダイ、イカ、ヒラマサ、大トロ、車エビ、サヨリなどの他に、甲貝といった地元ならでは魚介が並びます。

玉寿司
福岡県大川市字向島1265-4
TEL:0944-86-2800
営業時間:12時00分〜22時
定休日:火曜

折よく、4月23日から期間限定で「復刻特製ヱビス」が発売されます。1972年のヱビスビールを当時の熱処理製法で再現し、厚みのある味わいを復刻。缶には当時のラベルをモチーフに使い、裏面に1890年の発売から現在までの歴史を年表風に表現しています。

現在のヱビスビールの原型となった1972年のヱビスビールを復刻。当時の製法を再現し、しっかりとした厚みのある味わいを楽しむことができます。

明治時代の技術革新が栽培面積日本一のきっかけとなった、八代のい草を今も大切に使い続ける石橋氏。以前に勤めていた会社から独立し、昨年末に立ち上げた新会社のインスタイルは地元・大川のものづくりに関わる人たちとの取り組みを重視しています。人と人との交わりを織っていくという“織る”がキーワード。すでに家具ブランドなどといくつかのコラボレーションを行い、これまでとは違った変革が起こりつつあります。

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