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誰に言われるでもなく、好きなことに没頭できるのは大人の特権。この時間があるからこそ、仕事の疲れも吹き飛び、明日への一歩が踏み出せる。
この連載では、ゲストの幸せな時間にフォーカスし、その幸せをおすそ分けしてもらう。

連載第9回のテーマは「漫画」。お笑い芸人でもあり、俳優としても活躍している片桐仁さんは、漫画が大好き。小学生のころからの筋金入りの「漫画好き」に、漫画愛を語ってもらった。

読み始めると、何も聞こえなくなっちゃう

漫画好きであれば、子どものころ初めて買ったコミックを覚えている人は多いだろう。片桐さんの場合は、『Dr.スランプ』(鳥山明 集英社)のコミック5巻だそう。

「新大阪の駅で親戚のおばちゃんに買ってもらったんですよ。当時、アニメが始まっていてものすごく人気だったので、5巻しか本屋になかったんです」

たった1冊のコミックを、姉弟で繰り返し繰り返し読んだという。もちろん、その後既刊の1巻から4巻までそろえたのは言うまでもない。

それから週刊誌の存在を知り、片桐さんは「週刊少年ジャンプ」、姉は「りぼん」を買うようになる。

『キン肉マン』(ゆでたまご 集英社)にはまり、『ドラゴンボール』(鳥山明 集英社)にはまり、10代のころは一日中漫画を読んでいた。

「ドラゴンボールは、コマ割りのスピードが小気味いいんです。スピード感とか圧力とか重さとかが、あの軽いタッチの絵で表現できるのはすごい」

高いところから降りるときには、縦長のコマ割り。そこから横に移動するときは横長のコマ割りとよく計算されているため、動きがとても分かりやすいという。小学生の長男もあっという間に読破したそう。

大学生になるころには、友達とコンビニに行っても、漫画の立ち読みが始まると夢中になってしまう。はっと気が付くと周りには誰もおらず、時計を見れば1時間半経っていたなんてこともしょっちゅう。友達には「ゾーンに入っていたね」と笑われる。

「そのうち、気が付いたら袋入りになって、立ち読みができなくなっちゃったなあ。ページをめくるとき、漫画独自の時間が漫画ごとに違うのが好きだったけれど、今は漫画アプリで読むことも増えました。便利ですし、古い作品が読めたりするのもいいんです」

スポーツはやらない、観ない、興味ない。でもスポーツ漫画は大好き

ホラー、ファンタジー、ギャグと幅広いジャンルの漫画を読み続けている片桐さんだが、好きなジャンルのひとつにスポーツ漫画がある。

「僕、スポーツはやらないし、興味がないので観ないんですよ。サッカーもラグビーも観ない。それでもスポーツ漫画は大好きなんです。勝ち負けがはっきりしていて爽快感がある。やったことがないのに感情移入ができて、勇気をもらえる。それがスポーツ漫画の良さなのかな」

身を削って戦い、勝利する主人公の姿は時代を超えておもしろい。しかし、なかなか勝てずに苦悶したり、ゴルフ漫画なのに主人公が一度ゴルフをやめてしまい、また始める話などもまた、いい。しかも連載が30年近く続いていると、人生そのものをずっと伴走して見守るような気持にもなる。

最近、片桐さんの漫画人生に大きなエポックメイキングなこともあった。それは、漫画に自身にそっくりなキャラクターがでて、実写映画化の際にその役のオファーが来たことだ。

「『アイアムアヒーロー』(花沢健吾 小学館)の中田コロリです。漫画を読んだ友達に『お前が出ているよ』と言われ、1巻を読んで『おお、俺だ』と。映画化されるように祈っていたから、オファーはうれしかったなあ。撮影現場には花沢先生も来て、僕の写真をバチバチ撮っていき、後半コロリはたくさん出てきました」

いつまでも読んでいたい。秋の夜長に、この漫画はいかが?

さて、そんな片桐さんにおススメの漫画を聞いてみた。

・デザインもストーリーも最高峰の”神”漫画『ファイブスター物語(The Five Star Stories)』 (永野護 KADOKAWA)

「わけわからないけれど、僕が一番好きな漫画と言ったら『ファイブスター物語(以下FSS)』ですね」

数多くの名作の中でも、特に片桐さんのハートをわしづかみにして離さない。途中幾度かの休載期間をはさみながら、30年以上続いている知る人ぞ知る一大叙事詩である。

作品の象徴とも言えるロボットは緻密にデザインされ、時に恐ろしさを感じるほどに美しい。そのロボットを駆る、超人的な力を持った「騎士」と人工生命体「ファティマ」を中心に描かれるFSSは、いくつもの惑星、国家を舞台に、あらかじめ公開された数千年分の年表に沿って何世代にもわたる人々の歴史を紡いでいくが、そのストーリーと膨大な設定は、決してわかりやすいものではない。

「ひとつの作品で、FSSほど長いWikipediaは見たことないです。しかも大変過ぎて途中で止まってますからね」

現在は、多くの国家がそれぞれの思惑をもとに入り乱れる「魔導大戦」が、長い休載を経て進行中。だが2013年、ファンが渇望した連載再開も一筋縄ではいかなかった。世界や登場人物はそのままに、ロボットのデザイン、名称や、それまで積み重ねられた様々な設定が大幅に変更されたというのだ。

「ほら、12巻(2006年刊行)と13巻(2015年刊行)を見てください。9年空いてしまったのもすごいんですが、ここで何の説明もなく、設定が全部変わっちゃったんです!」と、実際に単行本を手に力説する片桐さん。

そんなFSSの型破りっぷりにも「ファンはついていくのが大変なんですよ」とうれしそうに笑う。

何回読んでもわからない。裏を返せば、何回読んでも新しい発見がある。今はわからなくても、ずっと後になってようやく気づかされることもある。「わけがわからなくても、それはわからない自分が悪いのだって思ってしまうんです」

漫画だけでは飽き足らず、何冊も出ている設定資料集を買って、勉強しつつ、繰り返し読むのだとか。

「これからはじめて読む人がうらやましいなあ。いろんな驚きを新鮮な気持ちで体験できるから」

FSSのことになると、一段と熱っぽく語る片桐さんである。

「もうね。作者が神様!FSSの主人公も含めて漫画に描かれた神様というのは数あれど、神様が描いた漫画というのはFSSだけだなあ」とぞっこんの態だ。

漫画を読みつつ、ビールをグビリ。1日1本がお約束

昔住んでいた下北沢に、漫画喫茶が初めてできた時のことを覚えているという片桐さん。

「よく行ったなあ。パイプ椅子と長机だけ置いてあって、漫画が壁にズラーと並んでいました。そこではよくビールを飲みつつ漫画を読んでいました」

今は、10代のころのようには漫画を読むための時間をとれない。漫画喫茶に行くことも減った。コミックがアプリに変わり、読む場所が変わっても、ワクワク感は変わらない。

自分の部屋で仕事をしながら、ついつい漫画に手が伸びたり、二人の子どもたちが寝てから、晩酌をしながら読んだり。夫婦ともに漫画好きの片桐さんの家には、同じ漫画が2冊あるものも多く、漫画談義が始まることもしばしば。

夫婦ともにビール党なので、毎日ビールを楽しむという片桐さん。犬の散歩ついでに、その日に飲む分だけを選ぶそうだ。

「いろいろなビールを飲んでいるけれど、ヱビスは間違いない。おいしいビールですね。特に好きなのは、琥珀ヱビスです。オーソドックスな味だけれど、何かが違うんです」

家族が旅行に行って一人のときに、ソファーで犬とくつろぎながら読むのもまた楽しい。

「今日は読んじゃおうっと」
そんなときは腰を据えて、じっくり読みふける。

時間を気にしながらちょい読み。好きな漫画の話をしつつダイニングで団らん。ひとりでじっくりソファーで熟読。

いつも傍らには、ビールがある。

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片桐仁
1973年生まれ。埼玉県出身。多摩美術大学版画科卒。お笑い芸人。タレント。声優、ねんど作家としても活躍。
〔取材協力〕
『ファイブスター物語』著者:永野護
第15巻が12月10日(火)発売