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身近なモノこそ、良いモノを。職人が一膳一膳手作りする江戸木箸。

身近なモノこそ、良いモノを。職人が一膳一膳手作りする江戸木箸。

身近すぎて、普段の生活でつい見落としがちになっている存在ってありますよね。なかでも食事のシーンにおける主役は料理ですが、「お箸」を意識して選ばれたことはありますか。日本人なら毎日使用すると言っても過言ではないアイテムですが、「なんとなく」選んだお箸を使っている方が大半なのではないでしょうか。日々の暮らしにも、特別な日にも、欠かすことのできない食事の時間をもっと豊かにするヒントを求めて。今回は、本当に人の手に合った箸づくりを追求する箸職人「大黒屋」の竹田勝彦さんにお話を伺ってきました。

機能美を追求し、感性に一致する箸を。

—自分の手に合った箸の選び方を教えて下さい。
まず標準的な目安として手首から中指までの長さに3、4cm足した長さのものが良いと言われています。それに加えて人の手は指の長さ・太さや厚みも一人ひとり違います。だからこそ、いくつも箸を握って自分の手や感覚的に合うものを選ぶのが一番だと思います。例えば、靴を買う時って自分の足に合うものを丁寧に選びますよね。でも箸はなぜか無造作に買ってしまう人が多い。箸は毎日使うものですので、もっと時間をかけて選ぶだけの価値があると思います。お店に来るお客様でも半日悩んで購入される方もいらっしゃいますし、10年近く自分の手に合う箸を探していたというお客様もいらっしゃいます。そういうお客様は箸を大切に考えてくださっていると感じますね。

—様々な種類の箸がありますが、どういった違いがあるのでしょうか?
大黒屋では五角形や七角形など様々な形状の箸をご用意しています。様々な形状があるのは、それぞれに適した用途があるからです。例えば、箸を握る指は3本、つまり奇数ですので七角形の約51°という角度が手にフィットしやすくなっています。また、五角形のタイプは麺を食べるのに適しています。72°というのが麺類がずれ落ちにくい角度なんです。さらに、箸の原料となる木材も多種多様ありまして、希少な木になればなるほど、どうしても価格が高くなってしまいますね。どの木材にもそれぞれ特長がありますが、手に持って「自分の手に馴染む」と感じるものを使うのが良いと思います。他にも大黒屋では納豆を混ぜるための納豆箸、豆腐のための豆腐箸、握力が弱った方にも使いやすい滑らないお箸など、用途に特化した箸もたくさん扱っております。

職人の指先の感覚が命の江戸木箸。

—他の箸と江戸木箸の違いを教えて下さい。
人間工学的な使いやすさを追求しているところですね。例えば、日本にはお箸づくりで有名な地域がありますが、あれは塗りの技術がメインになっているところが大半なんです。箸自体は機械で削って、職人さんが美しく塗って仕上げるというところもあります。江戸木箸は私が平成11年に商標登録したものでして、五角・七角など奇数角の箸を作ったのは大黒屋が初めてです。江戸木箸の誕生以降、他所でも奇数角の箸がつくられるようになりましたが、機械で削っているものは箸の先端が丸くなっています。一方、江戸木箸は職人の手でつくられていますので、例えば七角形の箸でしたら先端まで七角形になっています。先端まで角があるからこそ、料理がつまみやすいんです。

—江戸木箸はどのように作られているのでしょうか?
まず十分に乾燥させた材をテーパーの付いた板状(板割)に製材し、板割を棒状(小割)に製材します。その後は、製材した小割を数ヶ月間、乾燥させます。次が荒削りと傷取りの工程になるのですが、粗さの違う数種類のサンドペーパーを使い分けて、胴張り・五角・七角・八角など様々な形に削ります。この作業は手作業になりますので、職人の指先の感覚が全てを左右します。次が「ガラ掛け」という工程で、機械に川砂と水を入れて箸の表面を滑らかにします。最後に木の風合いを活かしながら、水に強くするため、摺り漆を塗って仕上げます。ちなみに大黒屋で作られたお箸は、長くご愛用いただくため修理やメンテナンスも承っています。

営業マンを経て、40代から箸職人の道へ。

—竹田さんが箸職人になられた経緯を教えてください。
もともと私は食器問屋の営業マンとして20年近くサラリーマン生活を送ってきました。景気の良い時期も悪い時期もありましたが、箸と茶碗はどんな時期でも注文がありました。それが箸で商いをしようと思ったきっかけですね。当時、箸の形状といえば丸形か四角がほとんど。もっと持ちやすい箸はないのかと探しましたが見つかりませんでした。それならばと、もっと持ちやすい箸を箸工場に注文しましたが「こんな手間暇がかかる箸はつくれない」と断られました。その時、箸は人の手に合う形状につくられているのではなく、工場や職人がつくりやすい形状でつくられているのだと気づきました。確かに丸や四角の箸ってつくりやすいんです。機械でも加工できます。しかし、これが五角形、七角形などの奇数になってくると、途端に難易度が上がります。こうなったら自分で作るしかないと思い立ち、試行錯誤をしながら現在に至るというかたちです。既にこの世にあるものであれば、誰かに弟子入りするという道もありましたが、奇数角の箸は全く新しいものでしたので、すべて独学でした。満足いく箸が作れるようになるまで3年ほどはかかりましたね。

—お店の「大黒屋」という屋号はどのような経緯でつけられたのですか?
私の家は代々箸職人というわけではありませんが、祖父が大工で、父が桐下駄の職人という職人の家系なんです。そんな下駄職人の父が使っていた屋号が「大黒屋」でした。なぜ父が大黒屋にしたのか、理由を聞いたことはありませんが、おめでたい名前にあやかったのではないかと思いますね。私が店を構えることになった時も、ごく自然に父の屋号を使わせてもらおうと思い「大黒屋」と名付けました。今では私の子どもたちも大黒屋の職人として働いてくれています。

身近すぎて見落としがちな箸の魅力。身近といえば家族のありがたさもついつい見落としがち。6月20日は父の日。お父さんにいつもの感謝を込めて箸のプレゼントはいかがでしょうか。大黒屋の江戸木箸で料理をつまみながら、ヱビスビールで乾杯。大黒様と恵比寿様は同じ七福神で、ペアで祀られることも多い関係。なんだか縁起も良さそうです。

取材先

有限会社大黒屋
https://www.edokibashi-daikokuya.com/
東京都墨田区東向島2-3-6

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