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300年の伝統ーー
「伊豆榮」の江戸前の鰻とは。

300年の伝統ーー<br>「伊豆榮」の江戸前の鰻とは。

江戸中期から上野不忍池でのれんを守り続ける「鰻割烹 伊豆榮」。明治の頃から現在でも上野の博物館や美術館を鑑賞した後に伊豆榮へ立ち寄って鰻を味わい、本郷へ抜けるのが粋な散策コースです。ビールを愛した文豪・森鴎外も足繁く通ったといいます。伊豆榮本店、梅川亭、不忍亭の店舗を取り仕切る9代目女将、土肥好美さんに江戸時代から変わらぬ江戸前の鰻のおいしさの秘密を聞きました。

土肥好美(どい・よしみ)さん

土肥好美(どい・よしみ)
伊豆榮の第9代目女将。生まれ育ちも上野近くの文京区湯島。4人のお子様を持つ。趣味はカラオケで十八番は高橋真梨子さん。ビーチボールや日本舞踊もやっていたアクティブな一面も。将来は三味線や尺八を習ってみたいとか。

武家から発生した、「江戸前」の鰻。

上野駅の公園口から徒歩5分。上野恩賜公園を右手にル・コルビュジエが設計した国立西洋美術館や国立博物館を見ながら奥へ進んで行くと不忍池近くの緑深い場所に佇むのが「伊豆榮 梅川亭」です。創業から300年。落ち着いた上野の森のなかで、うな重好きはもちろん慶弔の席や接待にも選ばれる鰻割烹として愛され続けています。

伊豆榮の創業は第8代将軍・吉宗公の時代にさかのぼります。初代は刀の柄巻きを生業にしてきた武士。武士の稼業では暮らしていけない時代に入った頃、上野は寛永寺を中心にして栄えた寺町において、不忍池で獲れる鰻を食べさせる屋台が軒を連ねました。伊豆榮もそのひとつだったとされています。

伊豆榮の誇りでもある江戸前の鰻とはなにかを土肥さんに伺うと、「武家から発生したこともあり、切腹を嫌って腹開きではなく背開きの料理法を継いできた」と語ります。背開きと腹開きは包丁から違うそう。切れ味のよい包丁で捌いた鰻は評判を呼び、創業から300年のいまなお続いています。

醤油以外にみりんを使うようになった「たれ」が江戸前の蒲焼。この照りは客が重箱の蓋を開ける一瞬までの命。
醤油以外にみりんを使うようになった「たれ」が江戸前の蒲焼。この照りは客が重箱の蓋を開ける一瞬までの命。

300年愛される、伊豆榮のこだわり。

武士が興したうなぎ料理店・伊豆榮の300年磨き続けた流儀は背開きばかりではありません。そのひとつが「鰻」そのもの。「伊豆榮の鰻は、背開きした鰻を白焼きにし、蒸して火力の強い備長炭で焼き上げていきます。江戸時代は不忍池の鰻を提供していましたが、現在でも国産にこだわり、できるだけ自然に近い環境で特別に育てられた『三河鰻咲』(みかわまんさく)をお召し上がりいただいています」

次に「焼き」の技。「裂き三年、串八年、焼き一生」と言うように、焼き加減ひとつで鰻の仕上がりは大違い。背から開いて串を打ち炭火で焼いた後、蒸し上げて余分な脂を落とし、たれに浸してさらに焼き上げることで、ふっくらと香ばしい蒲焼ができあがります。

そして、なんといっても蒲焼に欠かせないのが、戦時中も毎日火入れをしていた「たれ」です。砂糖を使わず、みりんのほどよい甘さで鰻本来の味を引き出します。白焼きでも塩や薬味をつけずに食べたいほどおいしい鰻だからこそ、絶妙にたれが絡んだ蒲焼は、江戸前のキリッとした味でご飯ともぴったりです。

「このたれで焼いた照りは、一度重箱の蓋を開けてしまうと二度と戻りません。そこで、お重に正面の印をつけるなどして、蓋を閉めたら、お客様の前へ出すまで絶対開けないようにしています」と土肥さん。蓋を開ける瞬間までの一期一会を大切にする細やかな気づかいこそ、伊豆榮の真骨頂です。

「鰻漁師さんを含め職人さんは表に出ないので、我々が伝書鳩になって『温かいうちにおいしくお召し上がりください』という気持ちで出します。出す向きもそう。お客様のもとにできることすべてで伊豆榮のこだわりを伝える。お客様にお越しいただいてありがとうございますと、つねに感謝を忘れないことです」

キリリとしまった縞模様にくっきりと浮かぶ帯の色。粋で風情がある着物姿も伊豆榮のおもてなし。
キリリとしまった縞模様にくっきりと浮かぶ帯の色。粋で風情がある着物姿も伊豆榮のおもてなし。

立川談志もこよなく愛した、伊豆榮のうな重。

そんな伊豆榮のこだわりと力が詰まった鰻をこよなく愛した落語家がいます。それが歯に衣着せぬ発言で破天荒な人物として知られた希代の天才落語家、故・立川談志です。いまや押しも押されもせぬ人気を誇る落語家の立川談春の著作『赤めだか』でもその様子が記されています。17歳で談志に入門してから真打に昇進するまでを描いたこの作品。なんと二ツ目の昇進試験は梅川亭で行われていました。談志が醸し出すピリピリとした雰囲気は音を立てるのもご法度といった、息をのむ厳しさがあったと土肥さんは振り返ります。

「場所は上野。鰻の老舗伊豆榮の別館梅川亭と決まっている。(中略)梅川亭の大広間の舞台は、立川流前座達の嘆きの丘と呼ばれている。それほどまでに談志(ルビ:イエモト)は前座たちにNOと云い続けてきた。」(立川談春著『赤めだか』<扶桑社文庫>より)

そんな談志師匠が好んで食べたのは、鰻が二段重ねになった「殿重」でした。「晩年の頃に北野武さんと太田光さんと3人でお食事してくださる機会があって。そのときも殿重でした」

白焼した鰻を蒸して余分な脂をとり、うまみや風味を閉じ込めた白焼きは鰻本来のやさしい甘みを感じる通好みの一品。
白焼した鰻を蒸して余分な脂をとり、うまみや風味を閉じ込めた白焼きは鰻本来のやさしい甘みを感じる通好みの一品。

土用の丑には、鰻とヱビスできまり!

鰻は万葉集でも「夏痩せによし」と詠われ、力のつく魚として古くから食されてきました。「土用丑の日」に鰻を食べる習慣が始まったのは、江戸時代の中期以降からとされます。由来は諸説ありますが、有名なのが博物学者の平賀源内の説です。ある鰻屋が、鰻が売れないことを源内に相談したところ、現在の広告文である引札に「土用丑の日、鰻の日。鰻は腎水をまし、精気を強くし、食すれば夏負けすることなし」という張り紙を店先に貼ることを発案し、功を奏して大繁盛になったそう。

今年の土用丑の日は7月30日。伊豆榮の鰻はどれも絶品ですが、なかでも女将のおすすめは、味つけにお酒しか使っていない「白焼き」です。「お酒をふり、蒸して、焼き上げもお酒だけ。だから本当に鰻そのものの味をお楽しみいただけます。岩塩とわさびをご用意させていただきますので、ちょっとそれで召し上がっていただいて。ちなみに蒸し戻しが難しい白焼きは、お土産での取り扱いはないんですよ」

ふっくらと蒸し上がった鰻本来の味をほふほふと楽しむお店でしか味わえない「白焼き」と、一期一会の蓋を開ける瞬間もさることながら、パリッと香ばしくなかはふんわりとした焼きの技が光る「うな重」や「殿重」。それらが運ばれるのを、ゆっくりじっくりとヱビスビールを飲みながら待つ贅沢を「土用丑の日」にいかがでしょうか。

土用の丑には、鰻とヱビスできまり!

伊豆榮 梅川亭

伊豆榮 梅川亭
住所 東京都台東区上野公園4-34
電話 03-5685-2011
営業時間 火曜日~日曜日 定休日 月曜日
※祝日の場合は11:00〜15:00(L.O.14:30)で営業
昼の部 11:00~15:00
夜の部 17:00~21:00
土曜日 11:00~21:00
日曜日 11:00~21:00
http://www.izuei.co.jp/

文・喜多布由子 写真・山本雷太

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