ハモとはウナギ目の円筒状の海の魚で、一般に体長60~80cmのものが市場に多く出回っています。鋭い歯を持ち、すぐに噛みついてくるので、「咬む(かむ)」「食む(はむ)」から「ハモ」と呼ばれるようになったとか。※名称の由来は諸説あります

西日本各地で食べられており、特に大阪と京都では梅雨あたりから秋にかけての夏の魚として馴染みが深く、日本三大祭の「天神祭」(大阪)、「祇園祭」(京都)の時期(大阪では6月下旬~7月25日、京都では7月中の約1か月間にわたり諸行事が行われる)と重ねてハレの食として深い歴史があります。

中でも今回は京都のハモ食文化に注目。京都で魚、といえば平安時代から魚市場として栄え続けてきた歴史を持つ錦市場があります。こちらで大正8年から焼き魚屋を営み続ける『錦魚力』さんの、ハモ料理を中心に取り扱う『錦魚力東店』山本晋吾さんからお話を聞かせていただきました。

錦魚力東店
山本晋吾さん


『錦魚力』(本店。同市場内)、『錦魚力東店』、ステーキレストラン『CAMERON』(御幸町)など幅広く展開する株式会社KAWAKATSUの取締役。元々京都市内の和食店の料理人でもあり、京都文化とハモに精通。現在は同社経営全店の社員教育や『錦魚力東店』での調理監修を担当。

なぜ京都ではハモが名物なのか。

まずは京都におけるハモ料理の歴史についてお伺いします。京都でハモが食べられるようになったのはいつからのことなのでしょうか。

「すでに平安時代にはハモの干物が朝廷に献上されていたと言います。ハモ料理は西陣(京都御苑北西部)あたりから始まったという話で、江戸時代中期(1795年)に発行された「海鰻百珍(はむひゃくちん)」という料理書には、料理法が100種類以上も載っているというので、おそらく江戸時代以前からすでにハモ料理が確立されていたと思われます」

なぜ海岸から近いわけではない京都中心部で海の魚が名物になったのでしょうか。

「ハモの主な産地は瀬戸内海や紀伊水道あたり。明石や淡路島の港から「担ぎ」(行商人)が京都御所まで運んできたと言います。いつの時代からか詳しいことは分りませんが、もちろん冷蔵技術のない時代のことで、普通の魚は酸欠になって死んでしまうものが、獰猛なハモは京都に着いても生きていました。その生命力の強さが愛された大きな理由といえます。

それと、京都独自の技術も大きく貢献していると考えられます。ハモは細かい骨が多く、京都では昔から、ハモの皮を切らずに一寸(3センチ)に二十四筋の包丁を入れる「骨切り」という技があります。現代でも骨切りができずに京の和食料理人は名乗れない、と言われるほど、ハモ料理はできて当たり前なのです。一人前になるまでは長年の修業が必要です」

ハモは祇園祭のある7月が最盛期のイメージですが、実際の旬はいつなのでしょうか。

「実は2つの旬がありまして、ひとつは入梅から祇園祭にかけて。夏の産卵期を前にして、山や川から流れ来る栄養豊かな雨水をたっぷりと飲むので味が良くなると言われています。それともうひとつが秋。冬眠に備えて栄養をたくわえるので脂がしっかりとのるんです。だから当店では秋のハモを大量入荷し、最新の冷凍技術で保管し、通年ハモ料理を提供しております」

京都でのハモの楽しみ方とは。

通常、ハモと言えば料理屋さんでフルコースというイメージがありますが、京都の方々はハモをどのようにして食べていらっしゃるのでしょうか。

「コースと言えば、ハモ鍋をメインに、落としや天ぷらなどのハモ尽くし、と言うのがパターンですね。でも京都人は料理屋へ行くことは少ないと思います。料理屋は前日までの予約が必要ですし。かといってわざわざリーズナブルなお店で食べようとも思わない。基本的には家で食べていると思います。

食べ方は、おとし(湯引き)や焼き(照り焼き)、酢の物など昔ながら。ただし、家でさばくことはできませんので、骨切り済みのものを買って家で調理するのが一般的です。最近では魚屋やスーパーなどで調理済みのものを買うというのも増えているでしょうね。当店でもご近所の方々が今日のおかずとして買いにこられていますし」

京都の方々が好きな調理法はありますか。

「世代によって分かれますが、ハモをよくご存じの方とかご年配の方は焼きハモが主流です。当店では炭を使ってより香ばしく焼き上げています。ご飯のおかず、酒の肴どちらでも。もちろん落とし(湯引き)もさっぱりとしていて一定の人気があります。好きな方は一尾分くらいはぺろりと食べてしまいますよ。

若い方々はハモカツかハモ天(天ぷら)がお好きですね。手頃な居酒屋にもあって身近なんでしょうか。ハモ鍋なんて食べたことがないという人もいるかもしれません」

京都の台所、錦市場をぶらり。

錦市場と言えば地域の飲食店や住民の方々の台所と思っていましたが、今ではすっかり京都観光の名所になっているように伺えます。観光客もハモを食べられますか。

「今でも基本的には地域の台所の感覚なんですが、10年くらい前から行政、近隣商店街共々、世界を相手に観光地として頑張っていこうということになり、ますます小売へと移り変わっていきました。

街一番の繁華街、河原町からも徒歩圏なこともあり、年々国内はもとより海外からの観光客がかなり増えました。当店ではワンコインのハモカツやハモ天の串をご用意したらこれが大好評。日本人の若い方はカツ、ヨーロッパの方などは天ぷらが多いかな。平日でも1000本以上を売り上げることもあります。

京都でハモ料理を食べるとなると優に1万円は超えます。料理屋でしたら2~3万円は見ておかないと。みなさん、興味は持っていらっしゃるけどなかなか手が出なかったのだと思います。

ニーズにお応えして、こちら(『錦魚力東店』)では店内で立食ができるようにして、店の奥のレストランではハモしゃぶをリーズナブルな価格で提供し始めたところです」

夏の祇園祭の時期などはたいへんな人混みになるようですね。

「ものすごい人の数です。錦市場内は東西390m、道幅は3~5mの中に130店舗弱の店がひしめいています。当店の前、南北に走る御幸町通りから麩屋町通りまでの65メートルを通るのに30分かかったと言う人もいるほどごった返します。ただ今年(2020年)は嘘みたいに空いていて、気楽に歩いていただけるチャンスと言えばそうですが」

伝統のハモ料理。料理屋の高級料理が、錦市場では気軽に誰もが楽しめる郷土料理のひとつとなっていました。

取材の帰り、錦小路通(錦市場内を東西に走る道)を西にゆっくりと歩いて『錦魚力本店』へご挨拶に。店の方と話しながらふと見上げたら、大きな鯛をつかんだ恵比寿様の絵が飾られていました。


●『錦魚力東店』
京都市中京区錦小路通御幸町西入鍛治屋町210 TEL:075-253-1118 FAX:075-253-1119 10時~18時 無休 レストランは夜のみ予約応相談 https://nishiki-uoriki.com/


2014年に宇治茶と生菓子が楽しめる『錦一葉』として開業するが、昨年より『錦魚力』のハモ主力部門として業態を変更。「はもカツ」「はも天」「はも照り焼き」各500円。「はも落とし」(梅肉付)700円。ほか「ふぐのひれ酒」1000円、河豚(フグ)や穴子などもあり。レストランにて「鱧のしゃぶしゃぶセット」3500円(税別)*電話かファックスにて地方発送可(代引き)。『錦魚力本店』はハモに限らずサワラやグジなど幅広い種類の焼き魚を扱い、「鱧寿司」「鯖寿司」、大きな「焼き鱧」「鱧茶漬け」「焼き鯛」などもある。イートイン可。


●錦市場商店街
はじまりは平安時代。冷たい地下水が豊富にあったことから、京都御所へ魚を納める店が集まっていたことが起源とされる。江戸時代に幕府公認の魚市場となり、明治から昭和初期にかけて地域の商店街に。鮮魚、川魚、焼き魚、魚卵、野菜、生麩、漬物、おばんざい、茶、酒、包丁などなど、京都の伝統食が今なお受け継がれている。
阪急京都河原町駅9番出口から寺町通りを北へ進み、徒歩約2分で錦天満宮の鳥居が出てくるので、そこから錦小路通を西へ進み高倉通りまでの間が錦市場商店街。西端の高倉通り交差点から烏丸駅16番出口までは徒歩約1分。
食べ歩き、一部の店では写真撮影も禁止なので要注意。『錦魚力』本店東店共に買ったものを食事する際は同店内に限る。