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あのテーマ曲が耳に残る、
フィルム・ノワールの傑作『第三の男』。

あのテーマ曲が耳に残る、<br>フィルム・ノワールの傑作『第三の男』。

ヱビスのCMでお馴染みのつい口ずさみたくなるあのメロディ。もとは不朽の名作『第三の男』のために書かれた「ハリー・ライムのテーマ」という曲です。そもそも、『第三の男』とはどのような話なのでしょうか。なぜ、いまもなお名作として愛されているのでしょうか。『パッチギ!』や『フラガール』などの名作を世に送り出し、数々の賞を獲得した映画プロデューサーの李鳳宇さんに解説いただきました。

奇跡的な偶然が重なって、名作は生まれる。

『第三の男』は、1949年にキャロル・リード監督の指揮のもとに製作されました。フィルム・ノワールならではの陰影や構図を凝らしたサスペンス・スリラーで、カンヌ国際映画祭ではパルム・ドールを受賞。さらにアカデミー賞でも監督賞、撮影賞(白黒部門)、編集賞の3部門でノミネートされました。

舞台は、第二次世界大戦後の米英仏ソによる統治下にあったオーストリアの首都ウィーン。友人ハリー(オーソン・ウェルズ)の招きでやって来た作家マーティン(ジョゼフ・コットン)ですが、ハリーは前日に自動車事故で亡くなっていたことを知ります。彼の死に違和感をもったマーティンは、事故を目撃したという3人の男を探すのですが……というストーリーです。

公開から70年以上経た現在でも、映画史に残る名作として必ず挙げられる本作。なぜ名作たりえるのかについて、映画プロデューサーの李鳳宇さんはこう語ります。

「名作とは、『強い映画』だと思います。好き嫌いで語る作品ではなく、何度観ても、または時代が経過しても古びない作品です。しかし名作は、その時代でしか完成しえなかった偶然や奇跡が重なってできるので、つくろうと思ってもつくれません」

『第三の男』を名作たらしめた、重要な要素とは。

『第三の男』を名作たらしめた、重要な要素とは。
『第三の男』の舞台となったウィーンの現在の街並み。

では『第三の男』を名作たらしめた“奇跡”とはなんでしょうか。

1つ目は、リアルな舞台。爆撃で壊された瓦礫や、ところどころに染まった建物の焦げ跡など、戦後間もないウィーンのリアルな街並みが、その時代背景に説得力をもたせていると李さんは語ります。

「実際の戦後の荒廃した風景だからこそ、米英仏ソの統治下にあった国の混乱期に、アイデンティティがわからなくなっている街の浮遊感や空虚さが表現されていると感じます」

2つ目は怪優、オーソン・ウェルズという存在。監督や脚本家の顔も持ちあわせていた彼は、若い頃から演劇、ラジオ、映画あるいはテレビの分野で多芸多才ぶりを発揮しました。当時はその一挙手一投足が注目され、彼がラジオドラマで火星人の襲来をニュース実況のように演出して告げたところ、放送を聞いていた何十万人が逃げたという逸話もあるほど。「オーソン・ウェルズは歴代屈指の俳優と言ってもいい1人」と李さんも言います。25歳の時には、実在の新聞王ウィリアム・ハーストをモデルにした映画『市民ケーン』(1941年)を製作・監督・脚本・主演。長回しやローアングルなどの巧みな映像表現で、映画の歴史に革命を起こします。

そんなウェルズが出演する『第三の男』ということで、当時から話題性は抜群だったといいます。実際にはわずかなシーンのみの登場ですが、そのインパクトは十分。物語の中盤にハリーの姿が闇の中、不意にライトが当たって浮かび上がる名シーンは必見です。その不敵な笑みは怪しげな魅力とオーラを放ち、一瞬のことながら衝撃的な印象を刻まれることでしょう。

ツィターを演奏するアントン・カラス
ツィターを演奏するアントン・カラス。ツィターはヨハン・シュトラウス2世による楽曲『ウィーンの森の物語』にも登場する。

そして3つ目が、全編にわたり流れる、ツィター奏者アントン・カラスによる音楽。ほのぼのとしたやさしい音色が特徴のツィターは、ドイツやオーストリアなどチロル地方の民族楽器です。木の箱の上に5本のメロディ弦と30本以上の伴奏弦を備え、それらを金属製の爪で弾いて音を出します。

実は、『第三の男』の映画音楽には、もともとオーケストラ曲が使われる予定だったそうです。しかしロケ地であるウィーンを訪れた監督が、ツィター奏者のカラスに出会います。そして彼の奏でる演奏に感銘を受け、急遽カラスの制作した楽曲を採用したといいます。「サスペンス・スリラーという内容と、殺伐とした戦後の風景に流れるのどかなメロディが妙にマッチしているんですよね」と李さん。音色を聴くだけで、心のノスタルジアに響き、映画の名シーンを思い起こさせる、そんな効果がカラスの曲にはあるようです。

恵比寿駅構内の「TAPS BY YEBISU」
恵比寿駅構内の「TAPS BY YEBISU」では、『第三の男』を随時上映。もちろん、店内のBGMはヱビスビールのCMでおなじみの「ハリー・ライムのテーマ」。

奇跡と偶然によって生まれた最高峰のエンターテイメント。今宵はヱビスビールを片手に、『第三の男』でノワールの世界に浸りませんか。

李鳳宇(り・ぼんう)

李鳳宇(り・ぼんう)
1960年京都府生まれ。プロデューサー。スモモ、マンシーズエンターテイメント代表取締役。1989年にシネカノンを設立し、『パッチギ!』、『シュリ』、『フラガール』など多くの作品を製作配給する。近年の配給作は『記憶の戦争』、『ひかり探して』など。2023年は『パラサイト 半地下の家族』の舞台をプロデュースした。近著に『LB 244+1』(A PEOPLE)。

文・喜多布由子 

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