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めでたい金目鯛を求めて東伊豆・稲取漁港へ
大昔から祝い事や神事になると必ず立派な尾頭付きの鯛がそなえられてきました。恵比寿様が手にしているあの鯛です。
今回は同じ鯛でも、目が覚めるような朱色の金目鯛についてのお話です。実は金目鯛は、鯛とは違うキンメダイ科の魚ですが、これもまためでたい魚として重宝されています。特に東日本で人気の魚で、静岡の伊豆半島周辺の漁獲量が全国の約8割を占めていると言われています。
金目鯛も鯛同様に塩焼きにしてもおいしいのですが、定番は煮つけではないでしょうか。金目鯛は身が分厚いうえに深いうまみがあり、甘辛いタレで煮つけるとそのだしが染み出て、さらにうまみが増していきます。その深い味わいが、ふくよかなコクのヱビスビールにぴったり。
というわけで今回は伊豆半島の中でも、特に金目鯛の産地として名高い稲取漁港を伺いました。おいしくてめでたいお話とともに、金目鯛の煮つけレシピをご紹介します。
めでたい、食べたい、あやかりたい
日本人にとって特別な魚、鯛。古来より祝い事や神事に欠かせない大切な魚です。恵比寿様が抱えているのも鯛ですね。この鯛とはタイ科の魚のことで、国内に13種いるうちの主にマダイを指しています。
なぜ、めでたいときには鯛なのか。それは「めで鯛」という語呂合わせもありますし、実際に、味、色、姿に優れているうえ、劣化しにくいこともあると言われています。また鯛の寿命は30~40年もあり、長寿で縁起がいいことも理由にあるようです。
このめでたさにあやかるように、タイ科以外の魚で鯛の名がつく魚が200種類以上もあるとのこと。そんな全国に広がる「あやかり鯛」を東西に分けるなら、まず西日本の代表格は甘鯛でしょう。
これはアマダイ科。特に京都ではグジと呼んで、若狭産を浜で一塩し一夜干したものを珍重しています。いまや鯛よりも高値で取引される高級魚です。
身は柔らかく甘みがあり、西京焼き、鱗ごと焼き上げた鱗焼き、照り焼き、酒蒸しなどにします。サイズは40~60センチが主流。アカアマダイ、キアマダイ、シロアマダイとあり、市場に並ぶのは殆どがアカアマダイ、もしくはキアマダイです。いちばん希少のシロアマダイは京都の高級料亭などが仕入れるそうです。
一方、東日本の代表格が金目鯛。略してキンメと称されることがあります。こちらはキンメダイ科。人気の理由はまずその姿の良さです。大きくてゴールドに輝く目。口から尾の先まで朱一色という美しさ。そして力強く跳ね上がった尾と、40~60センチほどの立派なサイズ。
かつての築地市場では、特に年末には千葉や静岡などからやってきた金目鯛が仲買の棚にずらりと並び、年末の賑わいに華を添えたものです。
身は肉厚でしっかりとしているので煮つけが人気です。ほか、塩焼きや鮮度が良ければ刺身もできます。このように東日本で鯛といえば金目鯛。今回は国内漁獲量の約8割を占めるといわれる日本最大の漁場を持つ静岡県伊豆半島へ伺いました。
金目鯛の本場中の本場、稲取漁港
同じ伊豆半島でも相模湾から太平洋側に面している東伊豆。中でも、すぐ目の前の海で日帰りの漁に徹する稲取漁港の金目鯛は、特に最高級品として有名です。魚は同じ種類でも、漁場や漁の方法により味や市場価格は大きく変わるもの。稲取の金目鯛はなぜ高級なのでしょうか。
伊豆漁業協同組合 稲取漁港直売所『こらっしぇ』店長の森田健司さんに話を伺いました。
「漁港から日戻り操業(日帰り漁)で一本釣りした金目鯛のことを稲取キンメと言います。具体的には、まさに今ここから見えている目の前の海、10マイル圏内で釣った金目鯛のことで、いわゆる地キンメのことです。金目鯛は鮮度が命。ここほどに漁場が近い港は他にないでしょう」
この日、水揚げされた稲取キンメを見せていただくと、体の半分ほどがまだ銀白色でした。時間が経つほどにあの鮮やかな朱色に変化していくのだそうです。
「金目鯛は深海魚で200~800メートルのところに生息しています。稲取前は海底が急斜面になっていて、水深が200~500メートルほどあります。この斜面に沿うようにして、1.5~2m間隔に40本の枝針をつけた糸を垂らすのです。これは立縄釣りとも言われてます」
東京で稲取キンメといえば「幻の魚」として、1㎏あたりゆうに1万円以上の値が付くほどの高級魚。漁場の環境、一本釣り以外にも、高品質とされる理由があるのでしょうか。
「稲取キンメは脂のノリがいいことでも知られています。おそらく食べているエサがいいのではないかと言われています。一年を通して釣ることのできる魚で、季節によって大差がないところが特徴です」
稲取はその地の利の良さから、金目鯛のみならず、イセエビ、サバ、ムツ、ブリ、イカなども水揚げされています。これらを求めて、観光客はもちろん、地元の住人や料理人も仕入れにやってきます。
癖がなく深いうまみの稲取キンメとあらば
森田さんに、おいしい金目鯛の食べ方を教えていただきました。
「稲取ではしゃぶしゃぶが人気です。薄造りした金目鯛を湯にくぐらせ、もみじおろしとポン酢で食べるのです。これは地元の旅館が考案した食べ方で、今では全国に広がっています。そのほかはやはり煮つけでしょうね。稲取では昔からめでたいことがあると、キンメの腹合わせと言って、二尾のキンメの腹と腹をつけて一枚の皿に盛り付ける習慣があります。食卓をより華やかに彩ると同時に、お互い腹を割って末永くお付き合いしましょうという意味が込められています」
稲取キンメのしゃぶしゃぶは、つるんとした滑らかな食感と淡白で上品なうま味で、飽きずにいくらでも食べられる味わいとのこと。
煮つけはしっかりとした弾力の中から深いうまみが滲みだし、時折甘辛いタレをつけるとさらにうま味が濃厚に。ご飯のおかずに最適なのはもちろんのこと、ビールとの相性もばっちりです。
「ほかにも刺身、天ぷら、味噌鍋、味噌漬け、炊き込みご飯などにしてもおいしいです。おまけに稲取の郷土料理のげんなり寿司には金目鯛のおぼろを載せています。当店でも人気商品のひとつです」
最後に森田さんから、稲取漁港が提案している金目鯛煮つけのレシピも教えていただきました。もし金目鯛が入手できたなら、ぜひチャレンジしてみてください。
ヱビスビールと共に、めでたい、めでたい!
稲取漁港の金目鯛煮付けレシピ
材料
金目鯛(姿)一尾
たれ
しょうゆ、酒、みりん、砂糖(やや多めに入れたほうがおいしい) おたま各1杯
作り方
- うろこをとります。
- エラの下に刃を入れ、エラ、ワタを取り除き、流水で洗います。
- 金目鯛が入る大きな鍋に調味料を入れて、よく混ぜ合わせます。
- 金目鯛を入れて、火にかけ、沸いたら落し蓋をし、中火で煮ます。時折、汁を金目鯛全体にかけます。
ポイント
- 鱗を取った後、一度冷蔵庫で冷やすと皮が破けにくくなります。
- 調味料は金目鯛が隠れるくらいたっぷりと入れてください。
『こらっしぇ』
静岡県賀茂郡東伊豆町稲取3352
8:30~15:00 毎月第2火曜休み
無料駐車場35台