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新しいヱビスをつくる、若き醸造マスターの挑戦

新しいヱビスをつくる、若き醸造マスターの挑戦

ヱビスビール130年の歴史には、さまざまな試行錯誤と挑戦がある。一見変わらないようにみえるが、実は変わり続けているからこそ、変わらない伝統がある。そんなヱビスの次なる挑戦が、2月21日に新たなビール体験ができる新ライン「CREATIVE BREW(クリエイティブブリュー)」の第一弾「NEW ORIGIN(ニューオリジン)」の発売だ。技術開発責任者でもある若きマスター・有友亮太(ありともりょうた)さんに、満を持して生まれた新しいヱビスの秘話を聞いた。

新しいヱビスをつくる、若き醸造マスターの挑戦
有友亮太さん/サッポロビール株式会社 マーケティング本部 商品・技術イノベーション部 兼務 ビール&RTD事業部

ヱビスブランドの新ライン「CREATIVE BREW」

2022年、入社10年目にして36歳の若さで、醸造責任者(技術開発責任者)に就任した有友亮太さん。任命されたのは新ライン「CREATIVE BREW(クリエイティブブリュー)」のビールづくりだった。

英語で“創造的な醸造”を意味するクリエイティブブリュー。「つくろう、驚きを、何度でも。」を合言葉に、ヱビスで100年以上培ってきた技術と知見を活かしながら、さらなるビールのおいしさや楽しさに挑戦していくヱビスブランドの新ラインだ。

新ラインのビールをどう表現していくのか。つまり、金の定番ヱビスだけでは伝えられないヱビスブランドの魅力を、クリエイティブブリューを通して楽しんでもらうような、新しいビール時間を届けることがミッションであった。

「好きなビールをつくってください」というのが就任時にかけられた言葉だった。これまで「こんなコンセプトのビールをつくってほしい」という要望や企画に応えて醸造レシピをつくってきただけに青天霹靂のできごと。130年以上の歴史を誇るヱビスブランドの商品企画から開発まですべてを担う、そんな新しい挑戦が有友さんには待っていたのだ。

醸造クリエイティブを学んだ10年
アート鑑賞も好きだという有友さん。ドイツでの留学中は、尊敬するゲルハルト・リヒターの作品巡りで楽しんだ。

醸造クリエイティブを学んだ10年

小さい頃は、歴史や遺跡、生物について深く意を問うことが好きで、将来は考古学者になる夢があった有友さん。大学は農学部へ進学し、発酵について研究を行う。そして2012年、晴れてサッポロビールに入社する。

研修後に配属された北海道工場では、香りと味を意味する香味の担当。4年目からは酵母に関する研究のため酒類技術研究所(現価値創造フロンティア研究所)に異動する。

学生時代から留学への憧れがあったが、入社してからは異なる文化圏や国ごとに味、種類も違うビールのつくり方を本場ドイツで学びたいと思うようになる。社内試験を経て1年間ベルリンにある研究教育機関(VLB Berlin)で、醸造、設備、製造用水、パッケージングなど基礎的な知識を習得。それだけでなく微生物の同定、アルコールから麦芽の分析まで学び、サッポロビール内でも限られた人しか持たない「ブリューマスター」の資格を取得した。

留学中は地方の醸造所まで出向くことも楽しみのひとつだったという。距離が近い地域でも、文化が異なるとビールも異なるのだ。たとえばデュッセルドルフはアルトビールが主流だが、電車で40分ほどの距離にあるケルンではケルシュが伝統的につくられている。

ヱビスの歴史からひも解いたNEW ORIGIN
中味担当は商品コンセプトにある中味を目指して試作・検討を繰り返す。材料のグラム数など、細かく秘伝のレシピを完成させていく。

ヱビスの歴史からひも解いたNEW ORIGIN

留学先から戻ると、中味開発を担当。2019年には製造も任された。そして、2022年、技術開発責任者に就任し、クリエイティブブリューに向けて動き出す。

新ラインのコンセプトが決まると、次なるミッションは第一弾となるビールの企画。NEW ORIGIN(ニューオリジン)は、1890年に発売された最初のヱビスビールを発想の起点に、独創的な感性や現代の技術製法を取り入れた、ヱビスならではの上質なおいしさとともに味わい深い一杯に仕上がっている。そのインスピレーションはどこから得たのだろうか。

「改めて歴史を掘り下げて理解したヱビスをお客様に届けたかったのです。温故知新というか、ヱビスブランドの起源を現在の解釈で見ていただければと思いました」

過去100年以上にわたるヱビスの歴史を改めて紐解く
「ヱビスビールの良さを引き出しながら、どのような新しいことをできるかを常に考えています」と語る有友さん。

過去100年以上にわたるヱビスの歴史を改めて紐解く。どこでどの材料を用いて、どのようにつくられたかを探求し商品化するという発想は、考古学者になりたかった有友さんならではの感性。明治時代から戦前までさかのぼり、サッポロビール本社の地下倉庫の資料や研究所内に眠る研究報告書など、紙で残っている社内の資料はかなりの量を調査したという。

その結果、1890年のヱビスビール発売当時に使用したと思われるドイツ産のファインアロマホップ「テトナンガー」の存在が浮かび上がる。発売当時に使用していたホップ品種の情報は残っていないものの、断片的に見つかった情報により、ホップを研究する原料研究所と協力のうえ100年以上愛され続けるホップの使用を導き出したという。そのテトナンガーを使い、新たなビールの魅力を引き出す試行錯誤が始まった。

そうして見つけた工程のひとつが4回目のワールプールホッピング。苦みや香りづけのため、複数回に分けてホップを添加する伝統的な製法を用いる一方で、古き良きホップ品種の華やかな香りをより引き出すために現代の設備を用いることで、当時では引き出せなかったテトナンガーの「高貴で洗練された苦味と香り」を見事に引き出した。故きを温ね新しきを知る醸造によるニューオリジンが完成したのだ。

NEW ORIGINのマリアージュ
肉の味が濃厚なパテ・ド・カンパーニュは、ニューオリジンのおいしさを引き立たせるマリアージュ。

NEW ORIGINのマリアージュは、塩レモンの肉料理

定番のヱビスビールとニューオリジンの違いを聞くと、「ヱビスビールのおいしさは、ヱビスでしか使っていないヱビス酵母由来の香り。濃潤でマイルドな味も加わって、飲みごたえがあります」と答え、次のように続ける。

「一方で、ニューオリジンは、爽やかでハーバルな香り。ただ、飲みやすいクラフトビールにあるような柑橘系やトロピカルな感じではなく、“純粋なホップの香り”が、特徴のひとつです。ヱビスが重たいと感じる方にもスムースな飲みやすさを感じてもらえると思います。つくっていく過程は独創的ですが、味自体は「王道」なんです。どのような料理にも合うと自負していますが、ビール本来の味わいを楽しんでいただくのであれば、肉料理がいいですね。とくに塩焼きにしてレモンを絞ったようなシンプルな味つけがおすすめです」と語る。直接、開発した本人に話を聞いていると、このマリアージュでニューオリジンをたまらなく味わいたくなる。

最後にヱビスビールを飲みたくなるときを聞くと「サッカーの試合を観るときに飲むというのが一番楽しくて、ドイツにいるときもそう。サッカーが好きというのが実は留学の裏心です」と爽やかに本音を語ってくれた。

今年末に開業予定の「YEBISU BREWERY TOKYO(ヱビス ブリュワリー トーキョー)」の醸造責任者に就任することが決まっている有友さん。これからどんな新しい驚きを仕込み中なのだろうか。

「人の記憶は3年、町全体で忘れていくのは60年くらいと言われています。恵比寿にあったビール工場がなくなってから35年。次なる記憶につながるような驚きをつくっていけたらと思っています」

有友さんの挑戦はまだまだ続く。

恵比寿本社の煙突の前で。「YEBISU BREWERY TOKYO」の新たなる挑戦が楽しみだ。
恵比寿本社の煙突の前で。「YEBISU BREWERY TOKYO」の新たなる挑戦が楽しみだ。

文・喜多布由子 写真・山本雷太

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