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心遣いを贈る――
ギフトの名演出家・水引の果たす役割とは?
お世話になっている方々へ、日頃の感謝の気持ちを伝える贈答品。そんな贈り物に欠かせない、日本ならではの飾り紐が水引です。日常生活ではなじみが薄くなりつつある水引ですが、これが結ばれてきた背景やそこに込められた意味を学べば、贈答の習慣をもっと楽しむことができるかもしれません。今回は水引作家の田中杏奈さんに、水引について教えていただきます。
武家礼法として広まった、格式高い水引。
水引の起源は諸説ありますが、飛鳥時代にさかのぼるといわれています。遣隋使が持ち帰った隋の国からの返礼品に紐が巻かれており、ここから贈答品に紐を巻くというスタイルが宮中で広まったといいます。その後、武士階級のなかで武家礼法のひとつとして折形(おりがた)とともに発展していきました。宮中、そして上級武士の間で好まれたのはなぜなのでしょうか。
「武家文化の中で、折り目正しく折った和紙で進物を包む礼法が確立されていきました。この包み方を折形といいますが、贈り物の用途や贈る相手の位によって和紙の種類や厚み、折りやひだの数などを変えることで格を表していました。この折形に合わせ、結ばれた紙製の紐が水引です。上級武士の間で守られてきた礼法の一つとして発展したという歴史ゆえ、伝統的な水引にはさまざまな決まりごとがあるのです」と、水引作家の田中杏奈さんは語ります。
決まりごとのひとつが、結ばれる紐の本数。田中さんによると、水引は中国から伝わった陰陽五行思想の影響を受けており、「陽」の数字である奇数本で結びます。基本は5本ですが、格式を重んじる場合は7本、気軽に贈る場面では3本、というように、贈り物の相手や中身、目的によって、本数を変えるそうです。また、水引の色にも意味があります。たとえば、金封に用いられる紅白の水引を見ると、左は白、右は赤で結ばれています。左右の場合は左が格上になるので、左側に格の高い色を配置するのが決まりだとか。
「白は太陽の光の色に近く、清く汚れのない色と考えられおり、最も格上の色とされています。つまり紅白の場合は白、金銀の場合は白に近い色である銀が格上となり、これを左側におきます。このルールは現代にも受け継がれています」
相手との関係性や敬意を「結び」に込める。
このように、折形と水引で格を表すことで、自分と相手との関係性や敬意を示すことができます。関係性や包む物が変われば折りの形も水引の結び方も変わるのです。と考えると、水引は“以心伝心”や“暗黙の了解”といった、あえてすべてを言葉にしない、日本ならではのコミュニケーション文化として機能していたといえるでしょう。
また、水引の素材が紙製の紐であることにも意味がありました。紙という素材の特性上、水引は結び直すことができません。つまり美しく結ばれた水引は、「一度も開封されていない、清浄なものである」ということを相手方に証明するセキュリティの機能も担っていたのです。そう考えると武家の間で広まったことも得心できますし、安全性を高めるために、より複雑で再現しにくい結び方が次々と生まれたことも腑に落ちます。
現代の暮らしに寄り添う、水引の使い方あれこれ。
礼法として武家社会で発達した水引ですが、江戸時代になると広く庶民の間にも普及します。明治時代の女学校では、マナーの一環として水引の結び方を教える授業があったほど。さらに大正時代には、立体的な水引細工が生まれました。立体となることで結び方はより複雑になり、華やかなモチーフが次々と登場し、工芸品としての地位を確立していきます。
「最近ではアクセサリーとしてはもちろん、テーブルコーディネートのシーンでも使われますし、日本の伝統行事や歳時を水引で表現し、インテリアに取り入れる方もいらっしゃいます。贈答というシーンを超えて、水引は活躍しているのです」
一方、贈答のシーンにおいては、水引はよりカジュアルな贈り物にも使われるようになりました。それに伴い、従来にはなかった結び方やスタイルも登場しています。また、誕生日のギフトに、リボンの代わりに水引を結んだり、贈答品に季節を感じさせるオリジナルデザインの水引を飾ったり、水引のデザイン性を活かした使われ方も多いようです。
「直線美と曲線美を組み合わせた優雅なモチーフには日本人の美意識が息づいていると感じます。それを紙という繊細な素材で適えているところも、実に日本らしい感性といえるのではないでしょうか。こうした美しく繊細な細工を贈答品に添えることで、贈り手の『あなたのことを思っています』という真心や心遣いを表現する。人と人との繋がりが薄くなりつつある現代だからこそ、水引文化を知り日常に取り入れていくことで、日々の暮らしや人々の交流がより豊かになると考えています 」
ハレの日やお祝い事などおめでたい席のために用意するギフトにおいては、伝統的なスタイルで。季節の贈り物などには季節感を表す細工で。さまざまな意味を込められる水引で、いつもの贈答品をアップグレードしてみませんか?
田中杏奈
水引作家/水引手仕事ブランド「hare」デザイナー/水引結び教室 晴れ 主宰。広告代理店の営業職を経て水引作家に転身。現在は故郷の淡路島と東京を行き来しながら、制作活動と教室運営を行っている。著書に『衣食住を彩る水引レシピ』(グラフィック社)など。HP:https://www.mizuhikihare.com
Instagram:https://www.instagram.com/__harenohi/