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誰に言われるでもなく、好きなことに没頭できるのは大人の特権。この時間があるからこそ、仕事の疲れも吹き飛び、明日への一歩が踏み出せる。
この連載では、ゲストの幸せな時間にフォーカスし、その幸せをおすそ分けしてもらう。

連載第3回のテーマは「映画」。今回は、東京国立博物館で上映した『博物館でシネマ!』や恵比寿ガーデンプレイスの広場で連夜映画上映をした『ピクニックシネマ』など、全国で移動映画館を開催するプロジェクト「キノ・イグルー」代表の有坂塁さん。有坂さんに映画の楽しみ方を伺った。

「映画を楽しむ場」を作る。映画を通じて人とつながる。

「僕、実は生まれてから19歳までに映画を2本しか観ていないんです」

5歳のときに観た『グーニーズ』は楽しかったけれど、そのあとに観た『E.T.』はちょっと怖かった。だからそれきり映画を観ていなかったが、19歳のときに観た『クール・ランニング』は心に残った。それが有坂さんの人生を変えた。

「映画って、名作なのかそうではないのかといった評論家目線で語られることが多いけれど、楽しみ方は作品軸だけではないんです」と有坂さん。

映画は、見ている側のタイミングによって作品の価値が変わる。絶望しているときに偶然見た映画に命を救われることもあるだろう。たとえそれがB級映画だったとしても、それがその人の人生を変えたことにまちがいはない。有坂さんが観た『クール・ランニング』も、誰の心にも刺さるわけではない。誰にとっても、その時にその人だけの心に響くストーリーがある。それが映画の面白さでもあるし、人生の楽しさでもある。

とはいえ、人は日々忙しい中で映画から離れてしまいがち。「何かのきっかけでまた映画を観て、映画の楽しさ、人生の素晴らしさを味わってくれたらいいな」。有坂さんは、そう考えている。いったん映画の楽しさに触れると、人はまた映画を観るのが癖になる。それを有坂さんは『映画のスイッチが入る』と呼んでいる。

移動映画館も、そのためのアイデアのひとつ。映画館に来られないなら有坂さん自身が映画をもって行こうというわけだ。

今までに依頼人とともに作り上げたアイデアは数知れず。屋外で開放感に浸って、大人数で映画を観ることもあれば、酒蔵のような小さな場で、少人数で酒を酌み交わしながら観る場を作ることもある。当然、その場に応じて選ぶ映画は変わってくる。月に一度は、1対1で、その人に適した映画を提示する映画カウンセリングも行っている。インスタでアップしている『#ねおきシネマ』は、有坂さんが毎朝起きたときに心に浮かんだ映画を投稿するというもの。すでに900回を超え、フォロワーは12000人にもなった。これも「誰かに映画のことを思い出させる」ための仕掛けのひとつだ。

何が出てくるかわからない「不意打ち体験」が、面白い

有坂さんが友人とともにキノ・イグルーを立ち上げ、活動を始めてすでに16年になる。毎週様々な映画のイベントを開催しているが、それらはすべて、一方通行にキノ・イグルーから提供する企画ではない。営業活動をしたこともない。求める人に声をかけられ、一から作り上げる。その場所でなければ体験できないことを依頼者と共に探し、作り上げていく。

「好きなことをしているだけなので、仕事をしているという感覚はないです。幸せしかないですね」と、飄々とした雰囲気で語る有坂さんだが「お客様を楽しませるために120%の力を発揮して、当日を迎え、最高の場を作る」という気持ちは熱い。

今は家でも手軽にDVDを観られるようになった。車中でも観られるようになり、一見映画の楽しみ方は広がっているようにも感じる。「でもね」と有坂さん。

「今の映画の楽しみ方って、観る映画を決めたら内容を調べて予告編を観る。人によってはあらすじや口コミを見てから観る。つまり、かなり多くの情報を入れてから観る人が多いですよね」

有坂さんは、何を見るかわからない「不意打ちの体験」で観る映画がどれだけ楽しいか、もっとみんなに知ってもらいたいと感じている。

ビールで乾杯をすれば、ほっと場が和む。会場の雰囲気もやわらかくなる

日常の散歩と言えども、楽しいことだけではない。知らない街を歩いて迷子になったり、時間がかかりすぎて待ち合わせに間に合わなくなったり、ひょいと入ったお店がはなはだしくはずれだったり、急に雨に降られてびしょぬれになることもあるだろう。

では、先入観なしに観る映画とは、どんなものだろうか?時間が中途半端に余って、ふらりと入った映画館。ふとつけたテレビでやっていた古い映画。そんなきっかけで観たものが意外と面白かった体験は、ないだろうか?

今日は、有坂さんが時々プライベートで行う「おうちシネクラブ」を開催。何を観るかは参加者に全く知らせない上映会だ。

知らない者同士が集まって、ちょっぴり緊張感が漂う雰囲気をほぐす重要なアイテムがビールだ。「お!ヱビスだ」。途端に場の空気が和らぐ。数種類あるヱビスビールから、好きなものをセレクトして、まずは乾杯。おのおの自由に席に着く。

自己紹介で名前と好きな映画をひとり1本ずつ発表していくと、「おお。それは自分も好きだな」「え?外見と似合わず、そんな映画を?」「それは知らないな。どんな映画だろう」といった、参加者の心の中のつぶやきが聞こえてくるよう。少しずつ会場は、人と人の距離感が変わり、お楽しみモードに変わっていく。有坂マジックの始まりだ。

この日、有坂さんがイベントのために持ってきた候補作品は、短編ものばかり300を超えていた。映画の枠を超えてアニメーション、CM、ミュージックビデオなどを用意した中から何をどう上映するかは、有坂さんがその場の雰囲気をみながら作品をチョイスしていく。それはいわば音楽を選ぶDJならぬMJ(movie jockey)のようなもの。

まずはビール瓶のかわいらしいキャラクターが登場するアニメーション映画で皆の気持ちがほぐれたあとに、ちょっぴりドラマ性の強い短編。かと思えば、スピード感のあるスケーターの映像、破天荒なコメディ、ほんわか癒しの映像など、あっという間に9本の映像が上映され、1時間が過ぎていた。

一つひとつの作品のあとには、有坂さんの軽い解説トークが入る。短い作品を上映後、すぐに次の作品が始まってしまえば余韻に浸る間もないが、トークでほっと息をつけるのがいい。

ツライを楽しいに変えることもできる大人の映画の楽しみ方

イベントのあとは、参加者たちと車座になって、ヱビスビールを飲みつつ歓談タイム。

「いきなり自分の好きなデザイナーが作った映画が出て、度肝を抜かれましたよ」
「自分の知らない映画は山ほどあるとは思っていたけれど、それにしても全部知らなくてそれぞれ面白くてびっくり」
「映像作品を他人の視点でセレクトとして見られる機会ってあまりないので、うれしかったです」など口々に、驚きや喜びは隠せない。

まさに有坂さんの狙った「不意打ちの体験」で、参加者の映画のスイッチはONになったようだ。心に響いた作品は、人それぞれ。互いに感想を聞き合うのもまた楽しい。

「映画の歴史は、たかだか120年。ただ観るだけではなくて、まだまだ楽しみ方はたくさんあると思うんです」と語る有坂さん。「たとえば僕はウディ・アレン監督の映画が好きだったんですが、次第に観ていない映画が減ってきてしまったので、残りの映画を観ないでとっておき『雨の日のお楽しみ』にしていました。そのころサッカーをやっていたのですが、雨の日の練習がつらくてイヤだったんです。でもそんな工夫でツライ日は楽しい日に変わりました。

いつまでも話は尽きることもなく場は盛り上がり、グラスをあけるピッチも進む。
味わい深く、2杯3杯と飲めるからヱビスビールが好きだという有坂さん。「ひとりで映画を観た後に、その余韻の中でパンフレットをじっくり読みながら飲むビールも好きですが、イベントの後で初めて会った参加者と飲むビールはとりわけおいしいですね」

今宵も、また新しい出会いがあった。映画を通じた人との出会いが、ますますヱビスをおいしくしてくれる。

「ここに、ニッポンの幸せ。」ヱビスビールブランドサイトはこちら

有坂塁
移動映画館「キノ・イグルー」代表。映画館、カフェ、ギャラリー、酒蔵、無人島など様々な空間で、世界各国の映画を上映している。上野の東京国立博物館で秋に開催している「博物館で野外シネマ」は、最大6,500人を動員した世界最大級の野外イベント。さらに恵比寿ガーデンプレイスの広場を使った人気野外イベント「ピクニックシネマ」を大成功に導く。新しい映画体験をつくるフロントランナー。
ホームページ  http://kinoiglu.com
インスタグラム @kinoiglu@kinoiglu2003